家に帰ったわたしは、日経メディカルの記事と、
それにしても、なぜ、M先生はあんなに焦っていたのか。理由は翌日明らかになった。
7月16日(木)。大腸内視鏡検査。
前日は検査食を食べ、当日下剤でおなかを空っぽにして内視鏡検査室へ向かう。この病院には内視鏡科専属の専門医がたくさんいて、主治医のオーダーに従って検査してくれる。この日わたしの担当をしてくれたのは、とても物腰のやわらかい男性医師だった。
大腸に入れたカメラの映像は、わたしの目の前にあるモニターに映し出される。腫瘍らしきものがあると組織を採取する。大腸にいくつかそれらしいものが見つかった。さらに、大腸と小腸のつなぎ目(回盲部)は灰色に変色して見えた。「これは病変ですね」と医師。さらに「M先生からのオーダーで小腸の入り口も視るように言われています」といってカメラを進めた。
「うわぁ!」
わたしは思わず声を上げた。モニターに映し出されたのは、小腸の壁を埋め尽くす無数のポリープだった。隙間なく一面に広がっている。
「これって病変ですか」一応尋ねると「そうですね。病変ですね」検査室の闇の中で医師の声は厳かに、まるで御託宣のように聞こえる。こりゃ大変だ。M先生が治療を急ぐのも無理はない。
普通、大腸内視鏡で小腸を視ることはあまりないらしい。カメラが届かないからだ。それでも入り口を視るようにとオーダーが出されていたのは、そこに腫瘍があるとM先生には予測がついていたからだろう。
MCLは本来は月単位で進行する中悪性度だが、なかにはindolent MCLといってゆっくり進行するタイプがあるという。
日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドラインのMCLの項にこんな記述がある。
臨床的には限局期のほか,節外病変主体・脾腫・白血化など脾辺縁帯リンパ腫類似病態を呈する例は一般にindolent な経過を呈し,比較的長期間の無治療経過観察が可能である。
わたしも脾腫で、地元の病院では脾辺縁帯リンパ腫ではないか、といわれていた。あまりにも自覚症状がないこともあり、わたしもindolent MCLなのではないか?と思っていたのだ。
しかし、8ヶ月前に胃カメラをしたときには何もなかったし、大腸内視鏡も大腸にポリープがひとつ見つかっただけだった。あれから8ヶ月、脾臓を摘出してから2カ月でこんな状態になったのなら―― しかもあの小腸の入り口の映像。どう考えてもindolentではなさそうだ。
これはもう肚をくくるしかない。入院してしっかり抗がん剤治療を受けなければ。