どうなってんの? マントル細胞リンパ腫闘病記

2015年3月。脾臓の腫れから発覚した悪性リンパ腫。脾臓摘出・生検の結果、判明した病型はとりわけ手ごわいといわれ、 標準治療も定まっていないマントル細胞リンパ腫(MCL)だった…。 自覚症状のなさと医師のシビアすぎる診断とのギャップに頭の中はチンプンカンプン。いったい全体わたしの身体どうなってんの? MCLと闘う50代オバさんの記録です。

 

プアなモビライザー


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◆2015年10月1日(木)3コース/day15
幹細胞採取一日目。朝、グラン投与。シャワーを浴びてからIVRセンターへ。鼠径部に脱血用カテーテルを挿入(大腿静脈穿刺)し、車椅子で採取室へ行くと、技士さんとI先生が待っていた。結局I先生は昼食抜きでずっと付き添ってくれることに。

f:id:ABOBA:20190910194310j:plain10時に開始、予定では13:30終了。幹細胞採取は血液を取り出し、血液成分分離装置を通して身体に戻す体外循環が行われる。その際使用する血を固まりにくくするクエン酸により、しびれを感じる(低カルシウム血症、テタニー症状)ことがある。採取中は何度も唇や指先などにしびれがないか確認されたが、幸いなにも起こらず。

途中、担当の看護師さんが何度も来て血圧を測定してくれた。T先生や移植科の先生も様子を見に来てくれたし、外来で忙しいはずのM先生も現れて、
あの椅子は持ってこなかったの?」などと和ませつつ、採取液の色をチェックして帰っていった。

採取中は技士さん(女性)が釣りに興味があるというので、カワハギ釣りのアタリをとる実演などをやってみせたり(採取中なのでアクション抑えめで)していたら、結構あっという間に時間がきた。終了後、技士さんはトマトジュースみたいな色の採取液がタプタプに入ったバッグを持ち上げて見せてくれた。
「とてもいい色ですよ。幹細胞、採れてるといいですね」
このバッグからサンプルを取り出した後、保護液を添加して、移植まで凍結保存される。幹細胞がいるかどうかはサンプルを検査して、今夕にも判るそうだ。移植に十分な量が採れていれば採取は今日で終了、足りなければ明日も採取。

「ちょっといいですか?面談室で話があるんだけど」

夕方遅く、M先生が呼びに来た。T先生とI先生も一緒だ。うぬぬ、なんだか空気が重い。先生方が退室した後、
「一体なんだろうね?」と近くにいた看護師のO野さんの顔を見ると、
「うーん、幹細胞の量が少なかった…のかも」と迷いつつ白状してくれた。あぁそうか、採れなかったんだ…。ショックで頭がクラクラしたが、面談室まで数十メートルの廊下を歩く間に少し落ち着きを取り戻し、態勢を立て直すことができた。

面談室に入ると、先生方が一様に神妙な顔で座っていた。
「結論から言うと、幹細胞は必要量の1/6しか採れていませんでした」M先生が詳細を話してくれた。朝の採血で造血幹細胞のマーカーであるCD34陽性(CD34+)細胞数を確認し、採取室で幹細胞が含まれていそうな色の液を確認して、M先生は「これならイケる」と思っていたそうだ。いつもピシッと背筋の伸びているM先生が珍しくシュンとしている。T先生たちも悲しそうだ。
明日ももちろんチャレンジするが、採れない場合もある。抗がん剤の影響とすると、次のコースでも採れない可能性がある。そうなると移植は断念せざるを得ない。

「アメリカにモゾビルという動員促進剤があるけど、日本ではまだ承認されていません注:現在はすでに日本でも承認済み。G-CSF単独投与後に採取すると採れる可能性もあるけど。まずは残る4コース目のCHASERが優先です」とM先生。つまり、幹細胞採取のために4コースを先送りにすることはない、ということだ。まずはきちんと寛解導入療法で寛解を目指すのが第一。自家移植はあくまでも地固めなのだから、CHASERをないがしろにするのでは確かにおかしなことになる。M先生の話は至極真っ当で納得できた。

残念ながら今日は採れなかったね、でも明日また頑張ろうね。それだけのことなら、わざわざ面談室で先生が全員そろって話をすることもないだろう。一日で1/6量ではいかにも少ない、移植はできないかもしれない。その可能性が結構高いので、覚悟を促すためにこうして話をしてくれているんだろうな。

病室に戻ると、看護師のO野さんが心配して様子を見に来てくれた。
「やっぱりダメだったよぉ」と報告すると、O野さんは悲しそうに眉尻を下げた。

夫に顛末を報告し、ベッドに横になると、日経メディカルの記事にあった「数名の幹細胞採取が不十分となったことから、効率的な採取が今後の検討課題だ」という最後の一文と、手持ちの専門書で見た「poor mobilizer」プア モビライザーという言葉が脳裏に浮かんできた。プア・モビライザー、直訳するなら「貧弱な動員する人」だ。貧弱。およそわたしに相応しくない単語じゃないか。あーぁ。




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